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2009年2月

水底のタチウオ

マゼンタの大きな渦。
その回転の中心に入って行くと
そこは水の中だった。

わたしは深く潜水していく。
深く深く水の底まで。

水底近くに降りて来ると
オレンジ、黄色、緑、
ゼリー状の光の柱がゆらめく中を
一匹のタチウオが泳いでいく。

あとを追っていったら
竜宮に行ける?

するとタチウオはこんな
謎めいたことを言う。

いや、そうではなくてね、
あなたは自分で通路を開くんですよ。
それにはあなた自身の手
その夢の手を
使わなければならないんです。

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シストローズ

こんなにも
甘い気配が漂っているのに
あなたがいることに
気づかなかった。
ずっとずっと昔から
こんなに近くにいたなんて。

空気には
ところどころ隙間があって
そこにすっかり隠れていたんだね。

昨夜
眼を開いたまま
夢を見ていたら
彼女を見つけることが出来たよ。

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トカゲ女

おまえは蜥蜴の道を行く。

とそのひとは言った。
それはとても古い道、長く閉ざされていた道だけど
おまえはきっと見つけることができるだろう、と。

蜥蜴の道を行くには、蜥蜴語を習得しなければならない。
まず、わたしの話を聞き取り、理解することができるようになること。

蜥蜴語は今あなたたちの使っているのとは異なる古い言語だ。
それは夢の中で話される言葉に似ている。

ヨミゴトなどと呼ばれることもある。

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風占

少しだけ暖かい風が
今までとは違うものを運んでくる

水仙の香り
夕暮れの

これから出会う
出会えそうな予感がする
新しくて懐かしい何かと

今夜は少し荒れるかもしれない
でも、そんな夜を過ごしながら
解かれ
結び直していく

少しずつ

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再会 3

あの、「そのとき」のことを訊いてもいい?

ああ。あの時のことは自分でもよくわからないんだ。
でも、いろんなことが思うように行かなくて、
もうどうでもいいやって気持ちはあったかもしれない。
それが結果的にああいうことになったんだって思うよ。
ちゃんと理解してるだろ?オレ。

そうだね。
姿も声もあの頃のままだけど、なんだか大人っぽく見えるもん。
わたしはさ、なんだか不思議な気持ち。息子があんたと同じ年なのよ。
だからかな、あんたとあんたのお母さんと、昔のわたしが入り混じったような、
すごく変な心持がして。
嬉しいんだか懐かしいんだか、それとも悲しいんだかわからないや。

お前の息子が同じ年か。ちょっと考えられないな。

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再会 2

いつもこの駅にいるの?

いつもというわけじゃなくて、ときどき来るんだ。
切符を渡すように頼まれたときとか。そうでなくても来ることもあるけど。
ここにはなんとなくいつも人がいるからね。やっぱり人恋しいのかな。
でも、知ってる奴に会ったのは、お前が初めてだよ。

列車には切符がないと乗れないの?

いや、乗ろうと思えば乗れると思う。
でも、切符があれば目的地まで確実に行くことが出来るから。

●●●君は列車には乗らないの?

乗ることもあるよ。この路線は窓から見える景色が綺麗だし。
でもまだ終点まで行く気にはなれないんだ。
それで、途中で降りたり戻ったり、ここに帰ってきたり、いろいろ。

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再会 1

本当に久し振りだね。会えて嬉しいよ。

お前からそんな言葉聞くのは意外だな。オレもまぁ嬉しいけど。
オレ、お前のことはけっこう気に入っていたしな。

ええっ?
…でも●●●君、入学式の後で、わたしの足を引っ掛けて転ばそうとしたじゃん。

そうだったっけ?よく覚えているね。
オレは頭のいい女が好きなんだよ。お前はちょっと優等生過ぎたけどな。
頭が良くてやさしい女が好きなんだ。

へぇ、理想が高かったんだね(笑。

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赤化

鋭利な刃物で切り取られた心臓
血は流されないはずだったのに

何かが間違っていた
その理由がわからないので
時間が凍りついたまま
永遠に融けることはない

その色に溺れてしまったのかもしれない
その混じりけのない
赤い色に

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夜の駅

わたしはごく最近ではなく、
遠い未来や、遠い昔でもないある時間の中にいる。

家もまばらな田舎の道を歩いていくと
途中にある樹々に花が綻び始めている。
とはいえ、花の季節にはまだ遠い。

山の斜面に出る。
ここを登りきったところからは駅が見えるはずだ。
そこから列車に乗って、もといた家に帰ろうと思う。

駅に着くと知り合いの少年が立っていて
「もう切符は買ったの?」と尋ねる。
まだだと答えると彼は、きみの分を持っているよと
一枚の切符をわたしに手渡す。

ホームに上って行くと
いつの間にか降った雨であたりが濡れている。
雨で洗われた空気が澄んでいて冷たい。
怖ろしく暗い、漆黒の空を
じっと見つめていると
たくさんの星が瞬いているのがわかる。

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月読の持てるをち水い取り来て

月読の 持てるをち水 い取り来て…

 読み人も知れないその古の歌が好きだ。かつて月には不老不死の妙薬があると言われた。かぐや姫が帝へ贈ったその薬は富士山の頂上で焼かれてしまったので、地上にはもはや存在しないのだけど、月の光に触れていると、その中にはいまだそのような力が含まれているという気がする。そんなふうに信じたくなる何かがある。生き物の息をふきかえさせ、蘇らせる何らかの力。特に今日のような満ちていく月には。夕闇の中でひときわ明るく、あくまでも冷たく輝く十二番目の月。

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変性意識

 その時空では、日常とは別系統の回路が働くように、意識のスイッチは切り替えられる。感情や思考は否定されない。しかし、優先されるのは感覚の先端の部分である。

 感情は少し遅れてついてくる。思考はもっと遅い。しかし、両方とも遅いからといって不要なものというわけでもない。それを否定したり、切り離そうとしたりするとかえって意識の統合化を妨げることになりかねない。「わたし」とは全体的な存在であるから。

 だから、出来るだけ注意深く自分のしていることを見守っていなくてはならない。リラックスして、集中すること。多次元的にある扉を発見し次々と開いていくのだから、油断してはいられない。

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急行列車

急行列車はその仮設駅にも停車するという噂をどこかで聞いた。
こんなところに停車できるのだろうか?
なんとも心もとないその高架駅で待っていると
まもなく列車がすべり込んできて、ドアが開き
わたしと他に待っていた何人かを乗せ出発する。
列車はどこに行くのだろう?
いや、わたしは本当は行き先を知っているはずだ。
そこに行くために乗り込んだのだから。

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